VRと半球型スクリーンを使った疑似プレゼンテーションシステムの開発が始動しています!
メディア学部 渡辺 大地 准教授
CGやプログラミングなど、ゲーム制作の技術面に関する研究に取り組んでいる渡辺先生。今回は、近年、ますます注目が集まっているVR技術を利用したメディア学部の戦略的教育プログラムの話を中心にお聞きしました。
■今年4月からメディア学部で始まった戦略的教育プログラムについて教えてください。
「VRを利用したPBL教育プログラム」というもので、簡単に言えば、発表練習のための疑似プレゼンテーションシステムを開発して、教育に利用していこうというプログラムです。本学では近年、PBL(プロジェクト?ベースド?ラーニング)やアクティブラーニングといった学生が能動的に参加する教育に力を入れていて、大勢の人の前で発表する、いわゆるプレゼンテーション(以下プレゼン)を重要視する傾向にあります。一方で、学生の中には、人前で発表する際に緊張で声が出なくなったり詰まったりと、発表時に本来の力が発揮できない人もいます。そこで私たちは今回、先進的な技術を教育現場に役立てようと、VR(ヴァーチャルリアリティ)を応用して、疑似プレゼンテーションシステムを開発することにしたのです。
具体的なシステムとしては、半球型スクリーンにVRを表示し、リアルなプレゼン環境を再現した中で練習ができるというものを考えています。半球型スクリーンのメリットは、すぐ近くにいる人はそのまま現実として認識でき、同時にスクリーンの中のたくさんの聴衆も認識できるというように、現実空間と仮想空間をシームレスにつなぐことができます。そういう利点から今回は、半球型スクリーンを用いることにしました。
また、よりリアルな状況を再現するため、発表者の動きに応じて聴衆の反応を変えるようなAI(人工知能)技術を取り入れる予定です。例えば、発表者が大きな声を出せば、スクリーン内の聴衆の視線がこちらを向くとか、ぼそぼそ話すと寝てしまうというようなインタラクションを考えています。
半球型スクリーンによる投射の様子(被写体はメディア学部三上教授)
■プログラムが始まって間もないですが、今後の展開はどのようにお考えですか?
今年度から来年度にかけて、教員と大学院生、卒業研究生(4年生)とで、まず基盤となるシステムの開発に着手します。学部生が実際にこのシステムを利用することになるのは、おそらく2,3年後になるかと思います。ただ、このシステムがある程度、完成するであろう1年後くらいには、システム評価やユーザーテストという形で、学部生に関わってもらうつもりです。
また、基盤システムの完成後は、それを使って遠隔でグループディスカッションを行うことも考えています。現在はモニターを通したテレビ電話などがありますが、臨場感がなく、特に会議のような複数人いる状況では、画面の向こう側の特定の人に話しかけにくいという課題があります。そこで今回開発するシステムを用いて臨場感を実現できれば、遠隔でも同じ空間にいるような一体感を感じ、やりとりがしやすくなるのではないかと考えられます。また、対面でのディスカッションが苦手な学生の訓練や就職活動の模擬面接にも応用できますし、さらに発展させて引きこもり対策や自閉症等の治療への応用も考えられるのではないかと、医療保健学部の先生のアドバイスをいただきながら検討しているところです。
それと並行して、このシステムを新しいデバイスと捉え、まったく違う用途も考えたいと思っています。例えば、ゲームやアニメーションの新しい表示環境として利用することを考えると、新しいコンテンツ開発への可能性が広がります。つまり、このシステム基盤を利用して、何か新しくて面白いゲームや映像作品をつくるという展開も将来的には考えていきたいと思っているのです。
■では、先生の最近のご研究についてもお聞かせください。
今、取り組んでいる研究には、大きく2つの流れがあります。ひとつは、新しいデバイスや技術の利用に関する研究です。最近はヘッドマウントディスプレイの普及やマイクロソフト社のHoloLensといった先進的なデバイスやツールが出てきていますし、ゲーム技術がそれ以外の分野に役立てられたり、その逆があったりと、非常に裾野が広がってきています。そうした動きに沿った研究として、例えば、去年の卒業研究生が学会発表した「ジョギングにおける音楽テンポの自動同期に関する研究」があります。これは感圧センサと小型コンピュータをつないで足裏に装着するだけで、自分の走るペースに合わせて聞いている音楽のテンポが自動的に変わるというものです。ゆっくり走れば音楽はゆっくり、速く走れば音楽も速くなります。これはゲーム分野で培われた、タイミングを合わせたり把握したりする技術を応用した研究です。
また、ガラスのテーブル上で砂を使って絵を描くサンドアニメーションの疑似体験システムを研究した学生もいます。Leap Motionという手指の位置が三次元上のどこにあるかを認識するシステムを使って、サンドアニメーションを仮想で実現することに取り組みました。
一方、もうひとつの流れがAIです。ゲームの世界では、リアルなグラフィック表現ができるようになってきましたが、いまだに違和感を持たれるのが、行動としてのリアリティや賢さがないという部分です。その解決にAIが求められています。
AIというと、少し前にグーグルの「AlphaGo(アルファ碁)」が話題になりましたよね。あれは特化型と呼ばれるAIで、ひとつのことに対しては賢いのですが、臨機応変な判断はできません。一方、ゲームで必要とされるのは特化型ではなく、その場その場で問題を理解して解決する汎用型のAIです。この汎用型AIの研究は、まだこれからというところですから、私たちの研究室でもその研究に力を入れ始めています。
■最後に今後の展望と、受験生?高校生へのメッセージをお願いします。
私の専門はグラフィックスですが、それ限らず、さまざまな分野の技術を統合していくことに興味を持っています。例えば、水の流れや砂の動きといった物理現象にまつわるグラフィック表現の研究は、まだまだすべきことがあります。それからゲームにおけるAIの研究。ゲーム内のキャラクターやシステム、ゲーム制作で役立つツールなどをAIで賢くしていく研究は、個別になされているので、今後はそれらを統合することに取り組みたいと思っています。
受験生?高校生へのメッセージとしては、今、皆さんが勉強していることやこれから勉強することに、役立たないものは何ひとつないと伝えたいですね。「こんなの役に立つの?」と思っていたことが、社会に出て、思わぬところで役立つこともありますから。
人それぞれ得意?不得意があるので、何でもオールマイティにできるようになろうとは言いませんが、“学んでいることは、どれも大事”という認識を持っていてほしいと思います。
■メディア学部WEB:
/gakubu/media/index.html
?次回は11月11日に配信予定です。