「“遊びを創造するヘッドフォン”で、新しいエンターテイメントづくりに挑む!」
コンピュータサイエンス学部 松下宗一郎 教授
コンピュータを使った幅広いエンターテイメント(遊び)を研究している松下教授。これまで、人の動作に合わせてガンダムの効果音を出す身体装着型コンピュータ「ガンダマイザー」の開発や「平衡感覚機能評価装置」を心の動揺をキャッチするセンサーに応用するなど、遊び心たっぷりの研究を手がけてきました。今回は、それらの研究がさらに“面白い”展開を迎えたということで、お話を伺いました。
(過去の掲載はこちら→ /interesting/013495.html)
■研究の新しい展開についてお聞かせください。
昨年の取材の時には、人のバランス感覚を数値化する医療機器「平衡感覚機能評価装置」を健康な人に取りつけると、その人の身体の揺れ具合から健康状態や心の動揺がわかるという研究の話をしました。私たち人間は、バランス的にはかなり無理をして二本足で立っているため、じっとまっすぐに立ってはいられません。止まっているように見えても実は揺れています。その止まっていられない度合いを測ると健康かそうでないかがわかるという研究に、私たちは耳鼻科の先生方と一緒に取り組んできました。そこからさらに研究を発展させて今回、完成させたのが、新しい装置「Eモーションセンサー」です。(エモーションセンサーと発音します)これはセンサーで測定された自分の身体の揺れ度合いを、数値としてメガネ型テレビやノートパソコンでリアルタイムに見ることができるというものです。Eモーションセンサーを頭に装着して電源を入れると、今、自分がどれだけ揺れているかということが付属の小型ディスプレイにセンチメートル毎秒の単位で、刻一刻と表示されます。
■この装置を開発するにいたった経緯とはどんなものだったのですか?
最初は「平衡感覚機能評価装置」が本当に健康診断に役立つのかということを知りたくて、実験を行ったんです。私自身が被験者となって、460日間、自分の身体の揺れを測り続けました。するとお正月休み明けで身体がなまっているときや風邪をひいたときに揺れが大きいということがわかりました。
健康状態が悪いときに揺れているという結果を得たので、一瞬、喜びました(笑)。ところがこの揺れ度合いを表すグラフは、同じように測っていた心拍数のそれと非常に似ていることに気づきまして。つまり心拍数が高くなると身体が揺れると。それって当たり前のことなんです。昔から医者が唱えていた学説に「血液の巡りにおかしなことがおきると、身体は揺れ始める」というものがありますし、論文も発表されています。
結局、それを確かめたに過ぎなかったので、ちょっとがっかりしました(笑)。それでも続けて計測していると、体調は悪くないのにグラフの縦軸では表せないくらい揺れの大きかった日が3日あったことがわかりました。私の研究室の中間発表会の日と卒業論文の最終発表会の日、そして1年生600人を前に学部の履修コース説明をする日です。この3日間に共通するのは、ストレスが高いということです。身体がプレッシャーに負けて揺れているんですね。その結果を見て、思いついてしまいました。「もしそのとき、揺れの数値を自分で見ることができたなら、何が起きるだろう?」と。その場で自分の揺れの状態がわかれば、何とかできるかもしれないし面白いかもしれない。そう思ってつくったのが「Eモーションセンサー」です。
■この装置をどんなことに使ってみようとお考えですか?
前回の取材で、例として「サッカーボールを再発明しよう」という言い方をしました。サッカーボールは意思がなく、製作者の意図もなく、ただ丸くて転がるもので、そこから好き勝手に遊びを発生させていけるものです。そんなものをコンピュータでつくりたいと話しました。今回の装置は、まさにその“サッカーボール”です。この装置は今のところ、身体の揺れ度合い(止まっていられる度合い)を計算して表示するだけのデバイスにすぎません。医療機器として有用というデータは得ているので、出発点のとおり医療に利用してもいいでしょう。でもそれだけでなく、これをいかにして面白いサッカーボールに仕立て上げるかを研究することこそが私たちのすべきことだと思っています。
さっきも学生たちと議論していたのですが、例えば舞台芸術をしている人たちの精神安定に使えないかというアイデア。舞台でじっと止まっていなければならないとき、師匠から「できていない!」と言われるより、この装置を使って自分で数値を見たほうが面白いなんていう案もあります。また、弓道部の人が弓を引く時は、わずかでも頭を動かしてはいけないそうですが、それに使えないかなど。
もちろんオープンキャンパスで披露しない手はありません。集まった方たちに装着してもらい、誰が一番、身体の揺れを静止できるかというゲームをしようと考えています。そのため、この装置に小さな無線機をつけて、パソコンの画面上に揺れの数値を表示できるようにしました。ちなみにバッテリーは、iPodなどの携帯型音楽プレーヤーに使われている小さなリチウムイオン電池を採用し、連続20時間は動かすことができます。使用プログラムは、とっても簡単なC言語。ですから学生にもつくれます。実際、この春休みに同じ装置を研究室にいる学生たちにいくつかつくってもらいましたが、全員が成功しています。また材料費は、1台につき3000円程度です。
こうしたことは、実は私たちが研究開発するうえで、一番気をつけている点です。この装置が何百万円もしてはいけません。すごく難しくて、世界で私しかつくれないというものでも困ります。高くて専門的なものは、一部の限られた人のものになってしまいがちですからね。また、この装置はどんな使い方をしても遊べます。嘘発見器なんてうそぶくこともできれば、「ゆらゆら占い」なんて言って遊べるかもしれません(笑)。なんの根拠もないものばかりですが、エンターテイメントというものはそういった場所から始まるんですよね。
■最後に今後の展望をお聞かせください。
私たちの最終ゴールは、「Eモーションセンサー」をゲーム機につけることです。今までゲーム機は、プレーヤーのコントローラーによる操作は受け取れても、その人がどれくらい面白がってゲームをしているかは受け取れませんでした。そこで「Eモーションセンサー」を使えば、プレーヤーが本当に面白がったかどうか、おそらくわかると思います。緊張感が走ったときの、自覚できないような小さな身体の動きを捉えられる装置ですから。今は、その身体の揺れの種類を特定できないか研究しているところです。さらに、今年になって追い風が吹きました。3D映画『アバター』です。あれを観て、モーションキャプチャ技術を使って、あの中で一緒になって遊びたいと思わない人はいないでしょう! つまり両手足首など身体にもうひとつ追加で運動センサーをつけて遊ぶ世界がもうすぐそこまで来ています。ですからヘッドフォンを装着するだけで、どれだけ夢中になって遊んでくれたかがわかる装置は、必ず需要があると思います。
「Eモーションセンサー」は、遊びを創造するヘッドフォンです。エンターテイメントをつくり出すことができます。またこの装置には、運動センサー、コンピュータ、無線機、小型、軽量、長いバッテリー動作時間、と、新たなゲームコントローラをゼロから作るためのすべてが揃っています。これでもってゲームの世界にもっと自由に入っていきながら、新しい遊びをつくろうと、今、研究室ではいろいろなことに取り組んでいます。ですからまた来年、どんな進展があるか乞うご期待です(笑)。
[2010年4月取材]
■CSエンターテイメント研究室(松下研究室)
/info/lab/project/com/dep.html?id=147
■プロジェクト独自ページ
http://www2.teu.ac.jp/kougi/hp146/index.html
?次回は7月9日に配信予定です。
2010年6月11日掲出