「ロボットやいろいろな物を思い通りに動かしてみよう!」
コンピュータサイエンス学部 大山恭弘 教授
制御技術を土台として、生物型ロボットやセラピーロボットの研究、遠隔操作で実験ができる学習システムの開発などに取り組んでいる大山教授。今回は研究室で扱っているテーマや研究の魅力について伺いました。
■研究室での取り組みについてお聞かせください。
「ロボット制御研究室」という名前がついていますが、私自身はそれほどロボットにこだわってはいないんです。元々の専門は“制御”です。私が大学を卒業するときに取り組んだ研究は、コンピュータを使ってラジコンヘリコプターを地上から自動的に飛ばすというものでした。そういう技術を“制御技術”といいます。ただ、“制御”という言葉は、高校生にも大学生にもわかりにくい。それを“ロボット”と表現するとわかってもらいやすかったので、そういう言葉を使うようになりました。ですから研究室では、ロボットというより、ひとつひとつのモーターを動かす技術の研究が主になります。そういう意味では、ロボットは“制御”のひとつの形として表れたものだといえますね。ただ、学生にはロボットの方がわかりやすいので、制御技術をロボットに活かす形で勉強してもらっています。
例えば、制御技術の基本を学ぶ課題として、学生全員に「アームロボット(腕型ロボット」をつくってもらいます。
これはとても単純で、モーターがひとつあって、電池をつなぐとモーターが回り、アームが動く仕組みになっています。電池のプラスとマイナスを逆にすれば、逆回りし、電池をはずすと止まります。このアームを、例えば90度動かして止めるには、電池をつないでモーターを動かし、止めたいところで電池をはずせば良いわけです。もしも行きすぎてしまったら、電池のプラスマイナスを逆にすれば、モーターが逆に回るので、戻すことができます。それが制御技術の基本です。ただ、「車は急に止まれない」というのと一緒で、電池を切ってもモーターは急には止まりません。
そこでコンピュータの出番です。動くものはすべて、物理の運動方程式で表すことができます。その方程式に基づいて、電池を変えるとか電圧を変えるとかすると、思い通りのところでピタッと止めることができます。まずはそうした基本原理をアームロボットで学んでもらってから、さまざまな形のロボットを動かす技術を身につけてもらいます。
■具体的には、どのようなロボットを動かすのですか?
例えば、何本も足があるような、ヘビやアリのような生物型ロボットがあります。足が多いロボットを動かすということは、制御もそれだけ複雑になります。こういう生物型のロボットを扱うときには、考え方がふたつあります。ひとつは実際の生物の動きを観察して、その動き通りにロボットを動かしてみるというアプローチ。一方で、本物のアリと機械のアリとは当然、違うものです。重さも筋肉のつき方も関節の数も違います。ですから機械は機械なりに一番良い動かし方があるだろうという考え方があります。それを「最適化」と呼びますが、どちらかといえばその「最適化」を探すことがこの研究室の取り組みのひとつになっています。機械にはモーターの出力の限界や重さもありますが、それらは物理の運動方程式で基本的には表せます。それに基づいて解いていけば、最適な動かし方がわかるのです。そういう基本を学んでから、卒業研究に入っていきます。
■学生たちは卒業研究で、どのようなことに取り組んでいるのですか?
研究の軸は3つあって、ひとつはいわゆるロボットの動かし方。先に挙げた生物型ロボットの研究をさらに進める学生もいますし、お年寄りや足の不自由な方が利用する電動車をコンピュータで制御する研究をしている学生もいます。
それから制御やロボットの動かし方を勉強するための学習システムも研究しています。自分のところに装置がなくても、あたかも動かしているように勉強できるインターネットを使ったシステムです。やはりロボットは実際に動かしてみないとわからないことがあるし、動かしてみて初めて身につく技術もありますからね。具体的には、まず運動方程式から導き出した数値をパソコン画面上に入力して送信します。すると少し離れた研究室にあるロボットが入力した数値通りに動き、その動く映像をパソコンに映し出すというものです。
あとは、簡単にいえばペットロボットですね。特に一人暮らしのお年寄りのそばに置いておくと役立つようなものを目指しています。例えば、人が前を通ったらセンサーで感知するとか、声を認識するとか。コンピュータ技術を使うことで、毎日頭をなでてくれていたのに、今日はなでていないから「病気だったのかな?」という反応をするとか。癒しだけでなく、会話やその人の動きなども感知して見守る、あたかも一緒に暮らしているような形で健康管理などに役立てられるようなペットロボットをつくろうと取り組んでいます。
■制御の研究では、プログラミングだけでなく実際に機械もつくるのですか?
そうですね。機械をつくる作業だけでなく、それにつながる電気回路をつくる作業もあります。その電気回路の中にはコンピュータがのっているので、そのコンピュータの周りをつくる作業もあります。そのうえにプログラムをのせて動かすには、運動方程式に基づいた制御理論も必要です。そういう意味では、機械も電気もコンピュータも理論も知らなくてはならないから、非常に幅広いですね。学生はそれぞれを専門的に深く知っているわけではないけれど、どれも一通り理解することになります。それは実はロボットコース出身者の一番の売りであり強みなんですよ。電気とか機械とかいう分野にこだわらず、それらの全部がつながるところを体験しているのは、このコースの学生だけですから。
また、ロボットがうまく動かない場合は、機械に電気回路にコンピュータにとすべてがつながっているため、どこに問題があるのかすぐにはわかりません。問題を発見するには、機械はオッケーか? 電気回路は? と区切って、各パートの動作を確認していく必要があるんです。それはまさに問題解決のアプローチ。複雑にからまったトラブルをひとつひとつほぐし、どこに問題があるのかを探す能力になります。それが身につけば、社会に出てからもきっと活躍できるだろうと思います。
■“制御”を研究する面白さとは何でしょうか?
やはり“物が動く”ことですね。また「なぜ動かないのか?」を考えることも制御の難しさであり楽しさです。ああでもない、こうでもないと取り組んで、最後に動いたときの「やった!」という感動はすごいものがあります。そういう感動をぜひ学生たちに経験してほしいです。また、物理の法則通りには動かないという点も面白いです。式は理想条件で書かれるので、空気抵抗や滑りやすさといった条件がない状態で成立しています。その理想と現実の間をどう埋めるかが面白い。そこがコンピュータ画面上で何かを動かすことと、実際に物を動かすことの違いであり、辛さであり、面白さでもあると思います。
電動車や産業ロボットなどには、まだまだ問題があります。研究者としては、いつかそれらを思い通りに動かしたいと思っています。これは私が大学で勉強し始めたときからの長年の夢です。それというのも、なかなか思い通りに動いてくれないからなんですけどね(笑)。
[2010年5月取材]
■ロボット制御研究室(大山?横田研究室)
/info/lab/project/com_science_dep/75.html
■アームロボット(youtube動画)
http://www.youtube.com/watch?v=3fDANI8V-Fg
?次回は8月13日に配信予定です。
2010年7月9日掲出