「コンピュータ初心者から受賞へ。大学の環境が育んだセキュリティへの興味」
コンピュータサイエンス学部 4年 森 拓真さん
4年生で優秀論文賞と優秀プレゼンテーション賞を受賞
「受賞できるとは、思ってもいませんでした」と、はにかんだ笑顔を見せるコンピュータサイエンス学部(以下CS学部)4年の森拓真さん。2011年7月に開催された情報処理学会「マルチメディア、分散、協調とモバイル(DICOMO2011)シンポジウム」で、優秀論文賞と優秀プレゼンテーション賞をダブル受賞するという快挙を成し遂げた。
森さんが発表した論文のテーマは、「アモーダル補完を利用した動画CAPTCHAの提案」というもの。これまで、WEBサービスの世界では、コンピュータによって大量のアカウントが自動取得され、それらをスパムメールなどに悪用されるケースが問題視されてきた。その防御策として、現在、アカウントを取得しようとしているのが人間なのかコンピュータなのかを確認する、“CAPTCHA”と呼ばれる認証が用いられている。例えば、文字や数字の列を歪ませた画像で表示し、ユーザーは、その画像に描かれている文字や数字を読み取って入力するというものだ。歪んだ文字や数字を読むことは人間にとって不可能ではないが、コンピュータにとっては非常に難しいという点を利用した認証テストだ。ところが、この“CAPTCHA”も、すでにコンピュータによって解析可能であり、コンピュータに解析できないほど歪ませると今度は人間にも読めないという結論が出ている。そこで森さんは、新たなアプローチとして、“アモーダル補完”という視覚心理学の概念を応用した提案を行った。「例えば、“A”というアルファベットのいくつかの部分が隠されていても、人間は隠された部分を脳内で補完して、“A”だと瞬時に認識することができます。コンピュータももちろん同様の理論でそのアルファベットを“A”だと認識できますが、人間とは違って認識までにある程度の時間が掛かります。それをCAPTCHAに応用して、動画にすることで、ユーザビリティとセキュリティの両方を高める工夫をしました」。
論文の完成度を上げるため、約1ヵ月間、たびたび研究室に泊まり込んだという森さん。「初めての研究論文だったので、実験の考察をして、自分なりに理論を組み立ててまとめるのは、想像以上に難しかったです。それでも指導教員の宇田隆哉先生や、研究室は違いますが視覚心理学に詳しい菊池眞之先生にアドバイスをいただきながら、なんとか進めることができました。それに同じ研究室の仲間たちも、別の研究ではありますが、学会発表へ向けて必死に取り組んでいたので、ひとりじゃないという感覚があって、踏ん張れました」。
また、CS学部のカリキュラムも、森さんを受賞に導いた要因のひとつだ。「この大学では、3年生の後期から研究室に所属するので、早い段階で卒業研究を見据えた取り組みができるんです。僕自身、3年生の後期は、関連技術の文献調査や自分の研究テーマに必要なプログラミングスキルの修得に時間を費やすことができたので、4年生ですぐ実装に取りかかれました。早くからスタートできたことが良かったんだと思います」。
大学の環境が、自分の興味を見つけるきっかけに
今では、Webアプリケーションのソースファイルを見ただけで、セキュリティ上脆弱な部分がなんとなくわかるという森さんだが、入学前はコンピュータの知識がほとんどない、初心者だったというから驚きだ。「高校時代は、パソコンでホームページや動画を見る程度(笑)。プログラミングも大学に入って初めて経験しました」。そんな森さんが、受賞できるほどの知識と技術を身に付けることができたのは、大学の環境にあった。「コンピュータサイエンス学部では、Linuxベースのノートパソコンが必携です。それにLinuxでのプログラミングも授業で身に付けられるので、思いついたことや試してみたいことを、すぐに自分のパソコンで始められます。僕の場合は、最初、ブログやホームページを始めて、アフィリエイトに興味を持つようになりました。それでもっと詳しくウェブのことを知りたいと思っていたところ、学内に“Linux Club”というサークルがあると知って、2年生のときにそこへ入部したんです」。コンピュータやウェブに詳しい学生たちが集まるそのサークルで、図書管理システムを開発する企画が持ち上がり、森さんも一部を担当することに。「この開発がきっかけで、Webアプリケーションに興味を持つようになって。それに自分でシステムを開発してみて、初めてセキュリティの大切さを実感したんです。そこからセキュリティへの興味がわいて、セキュリティを専門とする宇田先生の研究室に入りました」。
研究で培った力を実社会で活かしたい
今、森さんは、受賞した研究をさらにブラッシュアップさせようと取り組んでいる。受賞時のものから改善した内容をまとめ、国際会議へも英文で投稿した。「入学前は大学で学びたいことって何だろうと漠然としていましたが、入学してから自然と興味あるものを見つけることができました。やっぱり趣味並みに、自分が面白いと感じられることでないと、没頭して研究するのは難しいですから。そういう意味では、ここの学生は、普段からみんなパソコンを使っていて、共通の話題も多いし、情報も入って来やすいので、自分の興味を見つけるチャンスが多いのではないかと思います」。
卒業後は、インターネットサービスを扱う大手企業への就職が内定している森さん。「今回の研究をそのまま何かに活かせるかどうかはわかりませんが、少なくとも思い描いたことを形にしていく“要領”は身に付けられたので、それは社会に出てからも活かせるのではないかと思います。会社に入れば、実際のサービスに使用されるシステムを扱うので、一層面白くなるだろうと今から楽しみです!」と期待で目を輝かせた。
[2011年10月取材]
<指導教員からのコメント>
コンピュータサイエンス学部 宇田隆哉 講師
コンピュータサイエンス学部は、コンピュータを専門的に学ぶ学生が、1学年に約600人所属する巨大な学部です。そのため、コンピュータに詳しい同学年の友人が周囲にあふれているという環境が自然とつくられ、学生同士の刺激に繋がっています。森君にとっても、そういう刺激のある環境が、学ぶ意欲に結び付いたのではないかと思います。また、森君が所属している“Linux Club”のように、学生自らがネットワークの運用技術やプログラミングの知識を深めたり、Linuxを用いたサーバの構築やソフトウェア開発に挑戦したりする、他大学ではなかなか見受けられないサークルが存在することも、本学部ならではの環境が背景にあるからです。さらに八王子キャンパスでは、コンピュータサイエンス学部に限らず、全学部でノートパソコンが必携なうえ、ほとんどの教室にインターネット接続環境が用意されています。その結果、学内ではいつでもパソコンを使うことができ、学部を問わず、誰とでもコンピュータの話ができるという、コンピュータを学ぶにはうってつけの環境が整っています。
■コンピュータサイエンス学部
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?次回は12月9日に配信予定です。
2011年11月11日掲出