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「多くの人に面白いと感じてもらえるゲーム性のあるメディアアート作品を作りたい。」

メディア学部 安本匡佑 助教

メディア学部 安本匡佑 助教

今年4月に本学へ赴任したばかりの安本先生。これまでにCGアニメーションやゲームデザイン、メディアアート、インタラクティブブアートなど、幅広く手がけてきました。今回は今までに制作した作品をいくつか取り上げ、その研究についてお話しいただきました。

バランスボールインターフェースデバイス

■先生が研究で手がけた作品をいくつかご紹介ください。

私はメディアアートやゲームデザイン、CGなどを手がけているのですが、その中でも今日は“身体情報を用いた表現”として取り組んだ作品について話したいと思います。例えば、2006年末から取り組み始め、IPA未踏プロジェクトに採択された「身体で操るバランスボール型インターフェースシステムの開発」という研究があります。これはバランスボールに加速度センサや圧力センサを取り付けて、ボールに座った人の上半身の傾きや腰の位置など、その姿勢と挙動を把握し、それによってゲームやパソコンを操作しようという試みです。例えば、ボールの傾きと上半身の傾きという二つの情報を使って、パソコン上のキャラクターを操作することができます。ボールを叩いたり、ボールの上で弾んだりしてもセンサが判断するので、ボールの右側を叩けば画面の中のキャラクターに右手を、左を叩けば左手を挙げさせることもできます。また、ボールと上半身の傾きによってキャラクターのポーズを変えることも可能にしました。

■この研究を始めたきっかけは何だったのですか?

もともとこの研究には共同研究者がいて、その方の「オフィスで働く人たちにバランスボールを使ってエクセルを操作してもらおう」という発想からスタートしています。オフィスで働く人は、長時間パソコンに向かったままで、動作としては指先と目しか動かしませんよね? それは非常に健康に悪いです。また、創造的な仕事をする人は身体を動かしている方が良いアイデアが生まれると言われています。そこで実際に身体を動かしながら働けば仕事の効率も上がるのではないかと、バランスボールをマウスがわりにする発想を得たのです。そうして研究を進めるうちに姿勢と挙動というより高度な情報が取得できるようになったため、アウトプットをゲームにした方が面白いかもしれないという別の可能性が出てきたので、キャラクターを動かせるようにしました。このプロジェクトのプロジェクトマネジャーがゲーム会社の方だったので、自然とそういう流れになったということも背景にはあります。

■他にはどんな身体情報を用いた作品がありますか?

「点にんげん、線にんげん」という作品があります。これは2008年の夏に「ICC(NTTインターコミュニケーション?センター)」というメディアアート用の文化施設で催された子供向けの展示「キッズプログラム」のために制作したもので、東京芸術大学大学院映像研究科の佐藤雅彦先生と、トピックス研究員の石川将也さんと一緒に取り組みました。この作品では、体の動きをすごく単純化した情報、つまり“点”として抽出し、その動きだけで人の体や人の動きを表現するバイオロジカル?モーションを応用しています。例えば、人の関節の位置を示す点の動きだけを見ていても、脳はなんとなく人だと認識します。それがバイオロジカル?モーションです。この作品では、マーカーと赤外線カメラを用いた簡単なモーションキャプチャという形で実現しています。プレーヤーは頭や手足など10ヵ所にマーカーを装着し、舞台に立って動きます。するとスクリーンにマーカーを着けた部分が点で映し出されます。最初は基本的な動きで画面上の点と自分が連動していることを認識させ、徐々に映像に複雑なエフェクトをかけていきます。映し出されている点がワイプされたり、ぽとぽと落ちたりすると、点は自分自身を表しているので何だか不思議な感覚が生まれるという作品です。

また、昨年7月に六本木の「21_21 Design Site」で開催した「“これも自分と認めざるを得えない”展」でも、佐藤先生とユーフラテスのメンバーと一緒に展示作品の制作に取り組みました。この展覧会では来場者に入口で“展覧会を楽しむための4つの準備”をしてもらったのですが、そのためのシステムとネットワークも私が担当しました。具体的には、名前を入力してもらい、設置されている自動身長体重計で身長と体重を測ってもらいます。次にWiiリモコンを利用した装置で、空中に星型を描いてもらいます。それから穴をのぞいてもらい、虹彩情報をとります。これらの情報は先にある作品を体験するときに必要になるものです。例えば、体験者の身長と体重から個人を絞り込む「属性の積算」という作品。これは、まずカメラで光学的に身長を割り出し、入口で登録した情報と照合して、壁面に映像で「あなたは○○です。あるいは△△です、あるいは…」と名前を表示します。歩くと表示されている名前リストの映像が追従してきます。少し進むと床に印があって、そこに乗ると今度は体重が測られます。その情報によってさらに個人を絞り込み、最終的には1~5名くらいの名前を表示します。これはある基準だけをもとに扱われた時、自分はたくさんの人たちと同じように見られているということであり、必ずしも特定されないという独特の違和感を鑑賞者に与えます。

■現在は、どんなことに取り組んでいるのですか?

NHK教育テレビに『2355』という5分番組があって、以前、そこで流す「factory of dream-夢をつくる工場」というアニメーションのショートフィルムの制作に携わりました。その番組で現在(2011年5月)は「ballet rotoscope」という映像が流れているのですが、そのCGプログラミングも私が担当しました。バレリーナが踊っている実写映像に「点にんげん、線にんげん」のようなシンプルな直線の他、軌跡や曲線を組み合わせた映像になっています。ただ、この作品は手作業で人の動きをひとコマずつロトスコープしないといけなかったので、時間も人員も必要で大変でした。そこでもっと簡単に同じことができないかと、今、マイクロソフト社のゲームデバイス「Kinect」を複数台使って、リアルタイムに「ballet rotoscope」のようなことが出来るインタラクティブな作品の試作に取り組んでいるところです。

■先生がメディアアートに興味を持ったきっかけとは?

もともとCGアニメーションに興味があって制作していたのですが、だんだんと限界を感じ、IPA未踏ユースプロジェクトで「デジタルビデオカメラによるモーションキャプチャーシステム」の開発を行うなど、CGアニメーションの制作技術の方に興味が移り始めました。CGアニメーションは完成したものを見せるので、誰が見ても同じものです。それが私としては、面白みに欠けるように感じて。CGを作っていて面白いと思うのは、作っている途中に色々な角度から見たり動かしたりする、そういうインタラクティブ性の部分だと思うんです。ですから大学院の修士課程では、CGを使いつつインタラクティブなものを手がけていました。そこからだんだんとインタラクティブアートに移ってきた形です。

■最後に今後の展望をお聞かせください。

メディアアートの作品の中でも特にアート寄りのものは、何を表しているのかわかりづらかったり難しいと感じたりすることが少なくないと思います。一方、インタラクティブ性があって映像を使ったものの代表格にゲームがあります。ゲームはわかりやすくて、多くの人に面白いと感じてもらいやすいですよね。ですから作品を作る上でも、ゲーム的な面白さを活かせないかと考えています。作りたいものはゲームそのものではありませんが、エンターテインメント性をある程度取り込んだインタラクティブな映像作品を、ハードウェアから作っていきたいというのが今の私の目標です。
[2011年4月取材]

■メディア学部
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?次回は6月10日に配信予定です。

2011年5月13日掲出