第一線で活躍するプロの中へ飛び込んで、本物のメディアの世界を経験しよう!
メディア学部 佐々木 和郎 教授
NHKの番組制作局で、テレビ番組の美術設計やCGアートディレクションを担ってきた佐々木先生。現在は、学外機関や他大学などとのさまざまなプロジェクトを通して、映像コンテンツ制作やその配信について研究を進めています。今回は、その中でも進行中のプロジェクトを取り上げて、お話いただきました。
■先生のご研究について教えてください。
経歴から言えば、私はCGやVFX技術を使った映像制作が専門ですが、本学ではそうしたコンテンツ制作に加えて、インターネットによる映像配信や、クレイアニメーション制作なども手がけています。アニメーションと言えば、ちょうどタイムリーなプロジェクトがありますので、ご紹介します。それは、今年1月9日からNHK?Eテレで放送が始まったアニメ番組『ふしぎのヤッポ島 プキプキとポイ』(以下『ヤッポ島』)の制作に参加したプロジェクトです。このアニメの原作者は、ヤーミーさんこと、山本昌美さんというアーティストです。音楽監督は本学の客員教授でもある音楽プロデューサーの松任谷正隆さん、ナレーションはシンガーソングライターの松任谷由実さんという豪華な顔ぶれです。また作品の制作には、映画『ALWAYS 三丁目の夕日』やアカデミー賞で邦画初の短編アニメ映画賞を受賞した『つみきのいえ』などを手がけている株式会社ロボットが加わっています。このアニメ作品の撮影に、東京工科大学メディア学部として、技術協力させていただくお話をいただいたのですが、これは学生にとってすごく良い経験になると思ったわけです。そこで2011年4月に、「プロジェクト演習 クレイアニメーション」を立ち上げて、『ヤッポ島』のアニメーション撮影の準備をはじめました。この作品のアニメ監督でもある、吉葉龍志郎さんを講師に招き、7月半ばまでクレイアニメーションのノウハウを指導していただきました。9月に入ってからは、受講している学生を、撮影技術、人形を動かすアニメーション、美術、VFXの4チームに分けて実作業にはいりました。本学のメディアスタジオにセットを組み、プロスタッフの補助という形で、実際の撮影作業が始まったのです。こういうプロジェクトの素晴らしいところは、プロの方が学生と一緒に仕事することを喜んでくださっているということです。学生の元気さやフレッシュな感覚は、プロの方たちにとっても、いいものなのですね。しかし、最後のアウトプットの部分は、プロの水準で厳しくチェックされます。もし放送できるだけのレベルに達していなければ、「これじゃだめだ!」と、はっきり言ってくれるのです。いくら頑張って作ったとしても、ダメなものはダメだと言ってもらえる。そういう実社会の仕事の厳しさを学ぶことができます。こういうことは、外部のプロの方たちの協力が得られる演習だからこそできることです。
■松任谷正隆先生とのプロジェクトも進んでいますね。
本学の客員教授でいらっしゃる松任谷正隆先生が、5年前に特別講義にいらしたことがきっかけで、お手伝いさせていただいているプロジェクトです。毎年スキーシーズンに新潟県の苗場で開催される、ユーミンこと松任谷由実さんのコンサート「Yuming Surf&Snow in Naeba」をネットで伝えるコンテンツで、「[Y MODE]NET MAGAZINE IN NAEBA」というものです。その企画制作に、本学部の学生が参加させていただいております。毎年、学生が新しい企画を考えて、コンテンツ制作に参加します。5年目を迎える今年は、ゲレンデライブの開催や、リクエストライブなど恒例企画はもちろん、「ユーミン学園」や、苗場名物の「リクエストコーナー」の全日中継など、新しい試みも企画されています。このプロジェクトに参加している学生は、主には「intebro」という、学生が運営するインターネット放送局に所属しているメンバーです。ただ、「intebro」に所属していなくても、映像コンテンツに興味があってやる気のある学生には、どんどん参加してもらっています。このプロジェクトもまた、実社会での仕事と同じスタイルで進んでいるのです。 各メンバーがそれぞれ自分の目標を設定し、責任を持ってそれを達成するプロジェクトなのです。そこに、ユーミンのコンサートを支える、現場のプロフェッショナルのみなさんが指導してくださる。そういう、素晴らしいプロジェクトなのです。
■こうしたプロジェクトを通じて、学生にどういうことを身に付けてほしいですか?
社会の第一線で活躍する方たちと一緒に制作できるというと、華やかに聞こえるかもしれませんが、実際は相当厳しいものです。求められる仕事のレベルは、実際の仕事と同じですからね。ただ、やはり学生の特権で、いろいろな失敗も経験して欲しいし、それは大きな糧になると思います。例えば『ヤッポ島』の制作でも、私たち自身、アニメを制作する上で、非常に重要な技術をたくさん学びました。プロのアニメーターの方たち自身も、初めて使用するデジタルシステムだったので、色々なノウハウを獲得したそうです。カメラとレンズの相性だとか、デジタル技術では避けられない問題、それを解決する裏ワザなど、トライ&エラーを繰り返して進めていきました。しかし、なによりも大切なことは、学生たちが社会と同じようにチームをつくって、きっちり結果を出しているという部分にあると思います。チームの中で自分の立ち位置を見極めて役割を見出し、責任を持って最後まで取り組む。コミュニケーション能力や現場を仕切る力。そういうものを培ってもらうことが一番大切かと思います。
■最後に、今後の展望をお聞かせください。
私が今、強く感じているのは、メディアの世界では、デジタルがすべてを統合し始めているということです。その結果、メディアのクリエイターには、総合的な対応力が求められるようになっています。アニメーターやエンジニア、カメラマンという専門的な能力は重要ですが、それを超えた理解力も重要です。カメラマンは撮影技術だけでなく、コンテンツを理解して自ら動ける人が求められているし、スタジオエンジニアにしても録音技術だけでなく、ミュージシャンと一緒に作品を創造していける人が求められています。技術だけではなく、より作品やアウトプットに密接に関われる人が必要とされていると思います。
また逆に、IT技術やPCにそれほど興味がなくても、世の中にメッセージを発信することに興味があれば、活躍できる場所がメディアの世界に生まれてきました。こうした世界では、とくに女性が活躍していくと思います。SNSのようなメディアを活用して、情報発信していく仕事は女性に向いていると思います。こういう流れを受けて、メディア学部としても、これからはコンテンツに極めて近いところで、コンテンツがどうあるべきかを考えられる人を育てていきたいと思っています。この学部には、それを実現できるだけの環境が整っていますからね。社会の前線の仕事に学生が携われる仕組みがあって、実社会に出て体験するような技術や人間関係を学び、プロの厳しさとクオリティを学ぶ場が用意されているのです。学生には、その環境を大いに活用してほしいと思っています。
■メディア学部 佐々木 和郎 教授個人ページ
http://www.starman.biz/kazuosasaki/
■ふしぎのヤッポ島 プキプキとポイ 公式サイト
http://yappo-island.jp/
■東京工科大学公式インターネット放送局 intebro
http://www2.teu.ac.jp/intebro/index.html
?次回は3月9日に配信予定です。
2012年2月10日掲出