音楽と映像が“同等”に存在する表現方法を考えていきたい
デザイン学部 大西 景太 講師
音と映像を使ったインスタレーションや舞台演出の映像を手がけている大西先生。昨年5月に発表した作品『Forest and Trees』は、平成23年度文化庁メディア芸術祭アート部門審査委員会推薦作品に選ばれました。今回は、その作品を中心に語っていただきました。
■まずは、先生の作品についてお聞かせください。
“映像と音楽が共存する表現のあり方”をテーマに作品をつくっています。例えば、2011年5月にスパイラルホール(東京?青山)で行われたイベント「Spiral Independent Creators Festival12」で出展した『Forest and Trees』という作品があります。これは“音楽と映像を同等に鑑賞できる表現”を試みたもので、1.8m×1.6mの空間に、スピーカーを内蔵したデジタルフォトフレームを12個配置して、音と映像を同時再生させるというインスタレーションです。各フォトフレームからは、それぞれ3分間のシンプルなアニメーションが流れ、その動きに合わせた効果音がそれぞれ流れます。例えば、泡が浮かんで弾けるアニメーションには、パンと泡が弾ける効果音がついていたり、ブロックが重なるアニメーションには、その動きに合わせてパーカッションのような音がついていたり。そんなふうに12個のデジタルフォトフレームから、それぞれ音とアニメーションが同時再生され、それらが全体でひとつの音楽と映像空間を形づくっている作品になります。また、それぞれのフレームに近づけば、そこから流れる音がより大きく聞こえるというように、映像だけでなく音にも寄っていけるというイメージで空間構成を考えました。
■“音と映像を同等に鑑賞できる”というコンセプトですが、制作の際はどちらから先にできていったのでしょうか?
この作品の場合は、どちらともつかない進行具合でした。映像をつくって、それに音をつけるというのでもなく、逆に音をつくって映像をつくるというのでもありません。例えば、上と下とが合わさってカチッと音がしそうな動きがあれば、その動きのアニメーションとカチッという音だけをつくります。つまり動きからイメージできるような音を素材としてつくっていくというかんじですね。そういう映像と音のセットを12個用意します。その内の音をシーケンス上で組んでいって楽曲にし、その後で、映像のつじつまを合せていきます。逆に映像のキリが悪ければ音の方を調整してというように、音と映像を合わせていく作業を繰り返すんです。ですから正直、制作はめちゃくちゃ面倒な作業でした(笑)。
また、映像で音を表しているということが伝わりやすいように、映像は黒地に白の線画というシンプルなものにしています。質感なども映像では、表現しませんでした。というのも、音を聞いただけでそれがイメージできるような、鑑賞者の想像力が働く余地を残したいという思いがあったからです。ですから作り手が説明しすぎないようにという点は、意識してつくったと思います。
■“映像と音楽が共存する表現のあり方”をテーマにしたきっかけは何だったのですか?
いわゆるミュージックビデオでは、音が主役で映像がその補助と考えられますよね。でもその場合、映像は音楽を伝える補助をしているとも言えますが、邪魔をしているとも考えられます。逆に映画のサウンドトラックでは、映像が主役で、その雰囲気づけとして音楽が用いられているのですが、この場合は音が補助という位置にあると考えられます。そこで、それらがまったく同等になっている表現があれば、面白いんじゃないかと思ったことが、きっかけのひとつです。また、一番大きな動機かもしれませんが、『Forest and Trees』のように音を細分化して、その全てに映像をつけると、音楽の認知の仕方が変わるのではないかという思いもありました。例えば、ある音楽を聞いていて、ドラムの音だけを集中して聴いてみようとすることってありますよね。そういうことを聴覚だけでなく視覚でも同時にできたら、音楽が構造的に見えてきたり、違う捉え方ができたりするのではないかと思ったんです。鳴いている秋の虫を全て見る、というイメージもあります。野原で鳴く虫の声を聴くとき、普通その集合の音を聞いており姿は見られませんが本当は各箇所でそれぞれの虫が、羽をすりあわせたりという動きをともなって存在しているはずです。その全てを細かく見分け聞分けることを促すようなものを作ってみようと、今のような作品を手がけるようになったという感じです。
■では、授業ではどんなことを教えているのですか?
1年生の必修科目で「色彩概論」を担当しています。この講義では、色彩の基本的な知識やデザインの中で活用されている応用例を紹介しています。例えば、カカオの濃度にあわせてチョコレートのパッケージをパッケージを変えている商品があって、それを売る店舗のデザインもその商品の並べ方で構成しているというような実例です。そういう色に特徴のある商品の展開方法を紹介することで、色をどう扱うか、商品イメージに合わせてどう色が変えられているかを知ってもらいます。色彩の調和には、いろいろとルールがあるのですが、デザイナーはそういうルールもふまえながらデザインしているのだということを知ってもらう授業ですね。また今年度、副担当として関わった「感性演習 伝える」という授業では、デザインで伝えることの基礎や、プレゼンテーションで人に伝えるということを扱いました。この授業では、他にも感覚の伝え方にはどういう表現があるかということをワークショップで体験してもらうこともしました。例えば、音楽を聞いて、そのイメージをパステルで表現してみるとか、味を文字の質感で表現してみるといった試みです。学生たちは、それらを踏まえて、新しい飲料のパッケージデザインを考えるという課題に取り組みました。
こうした授業を通じて感じるのは、本学の学生の発想や思いつきの面白さです。ただ、その思いつきをどう広げていき、アイデアを絞って形にするかというプロセスを、学生はまだ知りません。その辺をうまく教えられたらと、模索しながら進めています。
■最後に今後の展望をお聞かせください。
この4月から3年生対象の「専門演習Ⅰ?Ⅱ」が始まります。Ⅰでは複数の教員が、映像と構成、視覚と伝達、空間と演出の3つの専門演習を教え、ⅡではⅠで取り組んだ3つの中からひとつを選択して学んでいきます。私が担当する「映像と構成専門演習Ⅰ」では、“役に立つ映像”というテーマで演習を進める予定です。“役に立つ映像”とは、いわゆる物事の成り立ちを説明する、実用性のある映像のことです。例えば、料理の作り方を説明するとか、ものづくりの過程を説明するプロセスムービーですね。それを学生に、アニメーションで制作してもらおうと考えています。それからもうひとつ、CM制作にも挑戦してもらうつもりです。蒲田や大田区のどこかへ取材に行って、そこの魅力を伝えるCMを撮影してもらいます。いずれも実際の制作現場のように、グループで役割を分担して取り組んでもらう予定です。また、「映像と構成専門演習Ⅱ」では、そういう実用性から離れて、より実験的な、自分にしか撮れない映像の可能性を探る試みをしてもらうつもりです。
私自身の作品については、最初にシンプルさと想像力の余地というような話をしましたが、そこをもう少し進化させたものをつくろうと取り組んでいます。音とわずかなアニメーションだけで表現して、鑑賞者の想像力で補うことで成立する作品をつくってみようと思っています。また、それと並行して『Forest and Trees』の展示をきっかけに知り合った音楽家の方のミュージッククリップも制作中です。今後もそんなふうに、自分の作品をプロモーションにして、そこから何か面白いことと繋がっていけたらと思っています。
■onishikeita.com
http://www.onishikeita.com/ft.html
■デザイン学部 大西 景太 講師個人ページ
/info/lab/teacher/ds/index.html?id=17
■デザイン学部
/gakubu/design/
2012年3月9日掲出