ポーラと共同研究、第50回日本香粧品学会学術大会にて発表 ゆず抽出エキスが表皮細胞内カルシウムイオン濃度上昇を促進 ―皮膚バリア機能を高める可能性―
東京工科大学(東京都八王子市、学長:香川 豊)応用生物学部の松井 毅教授らの研究グループは、株式会社ポーラ(本社:東京都品川区、代表取締役社長:小林 琢磨)POLAイノベーションセンターとの共同研究により、ゆずの残さから抽出したエキスが、表皮細胞内カルシウムイオン(Ca2+)濃度上昇を促すことを明らかにしました。
本研究成果は、2025年7月4日から7月5日に開催される「第50回日本香粧品学会学術大会」において発表されます。
【研究背景】
松井教授らは、2024年11月にポーラより発表された、ゆずのさのう(果実の搾汁後に残る部分)エキスを有効活用した商品開発に協力(注1)しており、同エキスが角層に作用する仕組みなどについて検証を行なってきました。今回、さらにその作用機序を明らかにするために、表皮細胞内カルシウムイオンに着目して、同社と共同研究を行いました。
【研究内容と結果】
高知県産のゆずの残さを50%エタノール水溶液で抽出したエキスを調製。ヒト初代培養ケラチノサイト(表皮細胞)にCa2+プローブ(Rhod-4,AM)を取り込ませて、ゆずの残さから抽出したエキスと、TRPV4阻害剤またはTRPV4活性化剤を添加して高速タイムラプスイメージングを撮影、Ca2+のイメージング解析を行いました。この結果、下記の効果が確認されました。
ゆずの残さから抽出したエキスを添加すると、大部分の細胞において細胞内Ca2+上昇(図1、マゼンタ矢印)が観察されました。これは同エキスが、Ca2+チャネルなどの活性化を促すことを示唆しています。

②TRPV4チャネルを介したCa2+流入効果
TRPV4阻害剤を添加したヒトケラチノサイトに、ゆずの残さから抽出したエキスを添加した場合、 細胞内Ca2+上昇は抑制されました(補足資料1)。一方、TRPV4活性化剤をヒトケラチノサイトに添加すると、細胞内Ca2+上昇が観察されました(補足資料2)。このことから、細胞内Ca2+はTRPV4が活性化されることで、TRPV4を通過して細胞内にCa2+が流入し、Ca2+濃度が上昇する可能性が示唆されます。
【研究成果】
ヒトケラチノサイト(表皮細胞)において、タンパク質TRPV4の活性がタイトジャンクションのバリア機能の制御に重要であり、TRPV4が活性化状態の時、皮膚バリア機能を担う表皮タイトジャンクションの形成を促進する働きを持つことがわかっています(注2)。このことから、ゆずの残さから抽出したエキスは、TRPV4を活性化し、タイトジャンクションの形成を促進することで、皮膚のバリア機能を高めることが示唆されます(図2)。
(注1)2024年11月プレスリリース「松井 毅応用生物学部教授が株式会社ポーラの新商品開発に研究協力」
/press/2024.html?id=231
(注2)2009年12月ポーラ発表プレスリリース「温かい温度で活性化するタンパク質(TRPV4)が皮膚のバリア機能に影響」
http://www.pola-rm.co.jp/pdf/release_2009_9.pdf
【補足資料1】
ゆずの残さから抽出したエキスは、ヒトケラチノサイトに対して、細胞内Ca2+濃度上昇を引き起こし、Ca2+チャネルなどの活性化を促すことが示唆されたことから、イオンチャネルを特定するため、TRPV4阻害剤を用いた実験をおこないました。TRPV4阻害剤を添加したヒトケラチノサイトに、ゆずの残さから抽出したエキスを添加しても、細胞内Ca2+上昇は抑制されました。
【補足資料2】
TRPV4活性化剤を用いた実験をおこないました。ヒトケラチノサイトにTRPV4活性化剤を添加すると、細胞内Ca2+上昇が引き起こされました。
【発表概要】 皮膚は人体の中での最大の臓器であり、外側から表皮?真皮?皮下組織からなる構造を持っています。表皮は多層構造を持った上皮組織であり、その最上層には角層(角質層)と呼ばれる死んだ細胞層が存在します。この角層はデボン紀後期に両生類が陸上進出を果たす際に獲得され、両生類?爬虫類?鳥類?哺乳類のような陸上脊椎動物のみが持っており、陸上生活を営むためのバリアとなっています。角層は顆粒層の最上層のSG1細胞が特殊な細胞死コルネオトーシスを起こすことで形成されます。私達は、マウス皮膚表皮から顆粒層細胞を分離し、細胞生物学的な解析が可能な系を構築しました。さらに、生体内におけるコルネオトーシスを観察する系も構築してきました。これらの系に加えて、コルネオトーシスが起きる瞬間に対して、光学顕微鏡によるライブイメージングと電子顕微鏡解析を組み合わせる系(光-電子相関顕微鏡法)も構築しています。このような様々な手法を、両生類?爬虫類?鳥類?哺乳類といった陸上脊椎動物の皮膚表皮に適用することにより、進化細胞生物学の観点から、皮膚の適応進化メカニズムを明らかにしようとしています。
論文タイトル:未利?資源ユズさのうエキスはケラチノサイト細胞内Ca2+濃度上昇を促す
発表者:東京工科大学 応用生物学部 松井 毅教授、同大学院バイオニクス専攻修士1年 佐藤七緒
株式会社ポーラ POLAイノベーションセンター 多? 明弘氏
発表学会:第50回日本香粧品学会学術大会. 口頭発表部門(2025年7月4日~5日、東京?有楽町朝日ホール)
[研究室ウェブサイトURL] https://takeshi-matsui-lab.bs.teu.ac.jp
■応用生物学部WEB:
/gakubu/bionics/index.html